「本当の事なんて、誰も知りたくないんですよ」

 この言葉は、僕が大学受験の為に予備校に通っていたとき、ある女子学生から言われた言葉だ。

 この言葉が携帯に送られてくるまでのやり取りは、紆余曲折したが、要は、最高学府を受験しようとしている男子学生が、僕と接触したことから端を発する。

 僕は、その男子学生が投げかけてくる話題、つまり最高学府がいかに他の大学より優れているか、また、そこを卒業した後、死ぬまで高い地位と高収入と安定が保証されているのだ、ということを聞き、

 「そんなはずはない」

 と反論した、唯一の予備校生だったみたいだ。

 それからというもの、彼はあらゆる集団に僕を敵だと思わせるように風説を流布し、最終的には予備校の職員まで僕を蔑むような言動をとった。

 僕は、予備校を去る最後、近くに座っていた女子学生に、僕は悪くない、そんなことを言ったことは無く、全てあの男子学生の捏造だ、どうしようもなく今日、ここを去るのだ、と言った。

 彼女は、ニヤリと笑った。そして言い放った。

 

 僕は今でも、間違ったことは言っていないし、やってもいないと断言できる。汚い手を使って相手を追い詰める、そういうことを平気でする人間が、わんさといる事に、若い頃の僕は気づかなかったが、それは悪いことだろうか。そういうものに加担する人間の方が蔑まれるべきだと思うし、今後もそのスタンスは変わらない。

 

 なぜか、都会に住み、自分のことを洗練されていると思い込んでいる人間ほど、そんな奴が多い。地方と比べ、絶対数自体が多いだけだろうか。そう思えてならない。

 

 人助けを看板に掲げているような人ですら、表面上の欺瞞に惑わされている始末だ。その人の本当の姿、本質的なものを見ようとしない。もう、彼らにかける言葉はない。

 

 僕は毎朝、新鮮な空気を吸い、新鮮な水の匂いをかいで顔を洗っている。そして移り行く風景の中を散歩し、昨日なんかは虹が遠くの山に懸かったのを目にした。

 誰とも比較することも、されることもない自分を生きることが、重要だと僕はそのとき思った。