地下道

 いつもの散歩道に、地下道があります。幹線道路の交差点にあるのですが、僕がその地下道を使うようになったのは、ごく最近のことです。いつも平坦な道ばかりを歩いているので、少し趣向を変えようと思ったのです。

 その地下道は、ほとんど近くの小中学生のために作られたものと言って良いと思います。なぜなら反対側には横断歩道があるからです。小学校中学校のある側の道路が幹線道路と交わるところに地下道があるのです。なので小中学生の登下校時以外はほとんど使われていません。僕はいつも横断歩道の方を使っていて、この近辺に住む人も多くは横断歩道を使っていると思います。

 

 地下道を使ってみると、何か特別な気分になります。ただ道路の下を潜っているだけなのですが、無事に反対側の出口に出られるかと、どこかスリリングな気持ちになります。突然天井が崩落してきて下敷きになるとか、反対側から入ってきた人とすれ違う時など、この人は変質者じゃないだろうな、などと思って少し身構えてしまいます。

 もちろんそんなことは無いだろうと思って地下道を使うわけですが、毎回ちょっぴりおっかないなと感じながら地下道を通るのです。

 

 そして先日、地下道の壁に鉄製の扉があることに気が付きました。その日はそのまま素通りし、家に帰って考えました。何であんなところに扉があるのか?どこに通じているのか?何だか世間で流行ってる、異世界ってところにでも通じてたりして、などと考えながら、とにかくその扉には無暗に触れないでおこう、警報でも鳴ったりしたら大変だ、と思って最近まで放置していました。

 

 それでも扉というのは不思議なもので、あるだけで想像を掻き立ててくるものです。どこか別の通路に繋がっているのか?核シェルターか何かに?いや、こんなド田舎に核シェルターなんていらんだろ。だったら、やっぱり何かの部屋だろうか。こんなところにある部屋なら、何かの備品室なんてわけではあるまい。特別な部屋なのだろう。もしこの扉の奥に迎賓館にあるような豪華な洋室が広がっていたとしたら、すごいな。でも、誰が何のために?

 

 ついに僕は気になって、つい先日、とうとうその扉のノブを回しました。やっぱり開きませんでした。開かんだろうなとは思っていましたが。

 それにしても扉というのは、開かなければ開かないほど、人の想像力を豊かにしてくれる物の一つだと気づかされました。