桜吹雪、小説的な何か、老人

今年の桜も散り始めました。僕は毎年、この季節になると同じ公園の同じ場所で桜を眺め、写真を撮ります。意識的にそうしているわけではなく、桜が一番きれいに見られる場所が、近所ではその公園しかないからです。歩いて10分ほど。軽い運動にもなり、気晴らしになります。

 

今日は近くのコンビニでホットコーヒーを買って、公園のベンチで座りながらそれを飲み、桜を眺めようと思っていました。

 

そこに、一陣の風が吹きました。

桜吹雪が舞い、僕はその光景を見て反射的に小説的な何かを思い浮かべようとしました。

思い浮かびませんでした。

 

風が吹き止み、桜吹雪が止むと、向こう側に老人が立っていました。ぴくりともせず、こちらを向いていました。帽子を被ってマスクをしていましたが、おそらくおばあさんです。

僕は桜吹雪がとても綺麗だと思いました。

ですがおばあさんは、どう思ったのだろう?

おばあさんは、あと何回この桜吹雪を見られるのだろうか。

おばあさんの人生もこの桜のように皆に愛されるものであったのだろうか。

 

桜が舞い散っても、おばあさんはじっとそこに佇んでいました。

僕は、今回だけは写真を撮らないでおこうと、その場を去りました。