佐藤泰志

 佐藤泰志という物故作家がいるのをご存じでしょうか?

 芥川賞に5回ノミネートされながらも落選し、失意のうちに41歳の若さで自死した作家なのですが、近年、その作品が再評価され、何本も映画化されています。今秋も「草の響き」という映画が公開予定です。

 

 佐藤泰志は北海道函館市出身なのですが、僕が佐藤泰志を知ったのは、たまたま訪れた函館市文学館でした。

 そこの片隅に展示されていた原稿を見て、

 「なんだ?この原稿用紙のマスいっぱいに書かれたカクカクの文字は…」

 と思って目を落としていると、解説員の方が近寄って来て、佐藤泰志のことを一から説明してくださいました。

 「時代の先を行き過ぎたんです。佐藤泰志は」

 今年で没後30年になるそうですが、今読んでも、佐藤泰志の作品はまるで現代の新進気鋭の作家が書いたんじゃないかと思わせます。高校の頃から「芥川賞作家になる」と公言し、最終的には人間国宝になろうとしていた人ですから、その大志の抱き方は尋常じゃありません。

 しかし彼を支える妻や、子供たちは本当に苦労したそうです。

 ある日、奥さんが家に帰ったら、家じゅうの窓ガラスが割られていて、拳を血だらけにしている佐藤泰志が呆然と立っていた、ということがあったりしたそうです。家庭内暴力も酷かったらしく、娘さんは学校から帰るとまず「今日のお父さんは大丈夫?」と心配しなければいけなかったらしいです。また、奥さんは「誰かに訊かれたら、お父さんは小説家だ、と言いなさい」と言っていたそうですが、娘さんは友達や知り合いに、自分の父親が小説家だとは言えなかったそうです。家族が壊れるか、お父さんが壊れるか…。娘さんは佐藤泰志自死した時、ホッとしたそうです。

 

 今、佐藤泰志の遺した全作品を図書館で探したり、フリマアプリで安く買ったりして読んでいます。僕が今書いている小説が、佐藤泰志の影響を明らかに受けているからです。もちろんまだ、佐藤泰志の足元にも及びませんが。

 ただ、「佐藤泰志を超えてやる」

 という身の程知らずの大志だけは抱いています。

 

 もうすぐ39歳になります。

 佐藤泰志自死する41歳までの間に、何とか1作品でも、彼を超えるような作品を書きたいと思っています。